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札幌地方裁判所 昭和45年(わ)117号 判決

本籍

札幌市北三条西一七丁目二番地

住居

右同

会社社員

百嶋武雄

昭和四年三月二二日生

本籍

札幌市北一条西四丁目二番地

住居

札幌市白石町北郷一条一丁目三番地

会社員

増子真一郎

昭和一一年六月一四日生

本店所在地

札幌市北三条西一七丁目二番地

大東工業株式会社

右代表取締役

百嶋武雄

右百嶋に対する贈賄、法人税法違反、増子に対する収賄、大東工業に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺靖子出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人百嶋を懲役八月に、被告人増子を懲役六月に、被告人大東工業を罰金三〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人百嶋および被告人増子に対し、この裁判が確定した日から二年間右各刑の執行を猶予する。

被告人増子から金六四、九九九円を追徴する。

訴訟費用は、その二分の一ずつを被告人百嶋および被告人増子の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人百嶋は、札幌市北三条西一七丁目二番地所在の土木建設請負業大東工業株式会社の代表取締役として同会社の業務を統括掌理していたもの、被告人増子は、札幌市技術吏員技師であり、昭和四三年四月から札幌市施設局都市開発部産業団地課工事係員となり、同年五月から同市が造成する「手稲工業団地造成工事その二」の施行に関し工事主任として右造成工事施行の指導監督などの職務に従事していたものである。

一、 被告人百嶋は、

(一) 同会社取締役工事部長藤田政幸と共謀のうえ、昭和四三年五月一七日ころ札幌市琴似町宮の森一八番地札幌トヨタディーゼル株式会社において被告人増子に対し新菱建設株式会社が元請けし、同会社から前記大東工業株式会社が下請けした「手稲工業団地造成工事その二」の施行について大東工業株式会社の要求がありしだい迅速かつきめ細かに指導監督をしてくれるよう好意ある取り計らいをしてもらいたい趣旨のもとに、その謝礼として株式会社北都石油商会発行の給油券二七九二号一冊(三〇枚綴)を贈与するとともに、普通乗用自動車(札五ま八二四八号)一台(時価二三一、八〇〇円相当)を同日ころから同年一〇月二四日まで無償貸与し、

(二) 同年一〇月二四日ころ札幌市北一条西一丁目札幌市民会館前において被告人増子に対し右工事の施工について従来から指導監督上の種々好意ある取り計らいを受けたことの謝礼の趣旨で普通乗用自動車(札五る七七三四号)一台(時価五五二、〇〇〇円相当)を同日ころから昭和四四年四月中旬ころまで無償貸与するとともに、同年一〇月二八日ころ同市北三条西一七丁目二番地大東工業株式会社において株式会社北都石油商会発行の給油券三六五九号一冊(三〇枚綴)を贈与し、

もって、それぞれ被告人増子の職務に関し賄賂を供与し、

二、 被告人増子は、被告人百嶋より

(一) 前記一の(一)の日時場所において同項記載の趣旨のもとに供与されるものである事情を知りながら、同項記載の期間普通乗用自動車(札五ま八二四八号)一台(時価二三一、八〇〇円相当)の無償貸与ならびに株式会社北都石油商会発行の給油券二七九二号一冊(三〇枚綴)の贈与を受け、

(二) 前記一の(二)の日時場所において同項記載の趣旨で供与されるものである事情を知りながら、同項記載の期間普通乗用自動車(札五る七七三四号)一台(時価五五二、〇〇〇円相当)の無償貸与ならびに株式会社北都石油商会発行の給油券三六五九号一冊(三〇枚綴)の贈与を受け

もって、それぞれその職務に関し賄賂を取受し

三、 被告人百嶋は、昭和四三年七月二九日札幌市北一三条西三丁目一六番地の一条裕宅において当時札幌市技術吏員技師であり、同市施設局都市開発部産業団地課長として同市が発注する産業団地造成関係各種工事などの入札に参加させる業者の指名や所属議員を指揮監督して同工事施工の指導監督などの義務に従事している一条裕に対し、同市が発注する産業団地造成工事の入札に参加させる業者の指名につき右大東工業株式会社のために便宜な取り計らいをしてもらいたい趣旨で、その報酬としてゴルフ道具など二組(時価合計六二、〇〇〇円相当)の供与の申込みをし

第二、被告人大東工業株式会社は、札幌市北三条西一七丁目二番地に本店を置き、土木建築の請負業を営む資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人百嶋は、右被告会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人百嶋は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、工事収入を除外し、あるいは架空経費を計上して簿外預金を設定するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

一、 昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が二〇、二五四、八三八円であり、これに対する法人税額が六、八七九、一八〇円であるのにかかわらず、昭和四二年五月三一日、札幌市北三条西四丁目一番地の五所在の所轄札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一、七五八、三五四円であり、これに対する法人税額は四九二、三二〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、もって被告会社の右事業年度の正規の法人税額と申告税額との差額六、三八六、八六〇円を免れ、

二、 昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が二二、四八一、七五〇円であり、これに対する法人税額が七、六五八、三〇〇円であるのにかかわらず、昭和四四年五月三一日、同市北七条西二五丁目一番地所在の所轄札幌西税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二、二〇七、三九六円であり、これに対する法人税額は六一七、九〇〇円である旨の内容虚偽の確定申告書を提出し、もって、被告会社の右事業年度の正規の法人税額と申告税額との差額七、〇四〇、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人百嶋武雄および同増子真一郎の当公判廷における各供述

判示第一の全事実につき

一、被告人百嶋武雄の検察官に対する昭和四五年二月一九日および同年同月二四日付各供述調書

一、被告人増子真一郎の検察官に対する同年二月二〇日、同年同月二一日、および同年同月二三日付各供述調書(五通)

一、証人増子美弥子の当公判廷における供述

一、検察官に対する桂信雄の同年二月九日(証拠更正番号一七〇)および同年二月二四日付、石井朝次郎、増子美弥子、百嶋文子の各供述調書

一、司法警察員に対する今村正憲ならびに伊藤博の同年二月七日および同年同月一二日付各供述調書

判示第一の一および二の各(一)の事実につき

一、証人藤田政幸の当公判廷における供述

一、検察官に対する藤田政幸の昭和四五年二月一二日および同年同月一八日付、円田義治の各供述調書(四通)

一、北海道知事作成の昭和四四年一〇月四日付自動車登録原簿謄本

判示第一の一および二の各(二)の事実につき

一、仙葉八郎の検察官に対する供述調書

一、検察事務官佐藤昭男作成の報告書

一、北海道知事作成の昭和四四年九月二五日付自動車登録原簿謄本

判示第一の三の事実につき

一、被告人百嶋武雄の検察官に対する昭和四五年二月二六日および同年三月一〇日付各供述調書

一、証人一条裕の当公判廷における供述

一、○原静也、増子真一郎、石井朝次郎の検察官に対する各供述調書

一、一条裕の検察官に対する同年三月七日、同年三月九日および同年同月一二日付各供述調書(四通)

一、垣見等の司法警察員に対する供述調書

判示第二の全事実につき

一、被告人百嶋武雄の大蔵事務官に対する昭和四四年一二月二六日付(証拠更正番号一六四)および同年同月二九日付各答申書

一、被告人百嶋武雄の検察官に対する昭和四五年四月二七日付および同年同月二八日付各供述調書

一、今村正憲、池田茂樹および百嶋謙武の検察官に対する各供述調書

一、大蔵事務官に対する百嶋文子(三通)、百嶋謙武、野月秀博、上東政治、稲場健司(二通)、百嶋松美、岡部○、木村卓および佐川一雄の各質問てん末書

一、登記官菊地亀之助および同和田正明作成の各登記簿謄本(九通)

一、佐藤昭平、西山亮三、三沢豊秀、市来義弘、宮井春二、高橋時雄作成の各回答書

一、大蔵事務官三木田勝美、同藤原昭三、同阿部正彦、同三輪義治、同川尻久雄、同森三雄ほか一名、同外館健一、同藤田誠ほか二名および同松野和雄作成の各調査事綴報告書(一二通)

一、鈴木英二、篠田武、笹森秀弘および及川英治作成の各上申書(四通)

一、百嶋謙武、津田明夫、青木俊夫、岡部○、篠原実、松田喜彦、新谷好道、谷口良材、伊東良子、三橋省三、重原勉、佐々木忠雄および遠藤正作成の各答申書

一、電気興業株式会社川越事業所総務部経理課長および佐々木達雄作成の各報告書

一、検察事務官佐々木達雄作成の電話通信書

一、押収してある法人税決定決議書二綴、法人税確定申告書一綴、株主名簿一綴、元帳七冊、領収証二枚、銀行勘定帳一冊、金銭出納帳一冊、ウイークダイヤリー一綴、書簡一綴(昭和四五年押六〇号の1ないし16)、約束手形一枚、借用証一枚、東海機械工業(有)借入内訳一枚、大東工業(株)株主名簿一綴、東海機械借入メモ一枚、土地売買契約書一枚、条件付土地売買契約書一綴、借入金メモ一枚、設立関係綴一綴、銀行勘定帳二冊、第五期決算資料「元帳」一冊、東海機械決算書綴一綴、総勘定元帳三冊、金銭出納帳二冊および決算書及申告書綴一綴(同年押六〇号の37ないし55)

(法令の適用)

被告人百嶋について

一、判示第一の一の(一)、(二)および第一の三の各所為 各刑法一九八条一項(一九七条一項前段)さらに判示第一の一の(一)につき同法六〇条(各懲役刑選択)

一、判示第二の一、二の各所為 各法人税法一五九条一項(七四条一項二号)、(各懲役刑選択)

一、併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情のもっとも重い判示第二の二の罪の刑に加重)

一、執行猶予 同法二五条一項一号

一、訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文

被告人増子について

一、判示第一の二の(一)、(二)の各所為 各刑法一九七条一項前段

一、併合罪加重 同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情のもっとも重い判示第一の二の(二)の罪の刑に加重)

一、執行猶予 同法二五条一項一号

一、追徴 同法一九七条の五

一、訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文

被告人大東工業について

一、判示第二の一、二の各所為 各法人税法一五九条一項(七四条一項二号)、一六四条一項

一、併合罪加重 刑法四五条前段、四八条二項

(各弁護人の主張に対する判断)

一、判示第一の一、二の各(一)の罪について

被告人百嶋および被告人増子の各弁護人は、「判示自動車および給油券の供与は、被告人増子の職務遂行を完全ならしめるためのもので、主として札幌市に対するサービスであり、大東工業および被告人増子に利益はなく、賄賂ではない。そして、右の供与は、大東工業が自動車で送迎する場合と大差がないことからしても、賄賂とはならない。また、被告人増子は、右供与について上司に報告しており、賄賂の認識を欠く。」と主張する。

しかしながら、右供与が主として札幌市に対するサービスならば、札幌市を通じその了承をえたうえでなさるべきなのに、右供与は被告人百嶋から被告人増子個人に対してなされたものである。しかも、右供与の趣旨は判示のとおりであり、一方において大東工業としては、工事の指導監督につき判示の好意ある取り計らいをしてもらうことによって工事のやり直しを避けることができ、会社の信用を高めるなど利益を期待することができるし、他方被告人増子は専用に判示自動車の無償貸与を受け、給油券の贈与を受けることにより工事現場に往復するのはもちろん、そのほか通勤などを含め便利な交通手段の確保という点で相当な利益を受けることは明らかである。右供与が札幌市施行の判示工事の出来ばえに益する結果をもたらす点があったとしても、それは一つの結果にすぎない。また、自動車による送迎も、それが職務に関する報酬とみうる程度に至れば賄賂となるというべきであり、右供与に代る送迎程度に至れば、賄賂性を帯有するものというべきである。なお、賄賂の認識を欠くとの点について、証拠関係を検討すると、被告人増子は妻に対し友人から自動車を借りた旨話しただけであること、また右供与後工事現場に赴く車中で上司である一条課長に自動車を友人から借りた旨話したことが認められるが、一条課長に被告人百嶋あるいは大東工業から無償貸与を受けた旨報告したことまでは認めることができない。これらの事実は、被告人増子が賄賂の認識を有したことの認定の妨げとなるものではない。

以上の理由により、各弁護人の主張は採用することができない。

二、判示第一の一、二の各(二)の罪について

右被告人両名の各弁護人は、「判示自動車の供与当時は、ほぼ工事終了時期にあたるものであり、したがって右供与は被告人増子の職務と関係がない。右自動車は、被告人増子が大手興産株式会社の仕事について職務外の技術指導などした謝礼として供与されたものであって賄賂にあたらない。」と主張する。

証拠関係を検討すると、判示自動車の供与当時は、ほぼ工事終了時期にあたり、竣工検査を残す段階にあったことが認められる。しかし判示自動車の供与については、まだ工事中の昭和四三年一〇月上旬ころ被告人百嶋と被告人増子との間で了解がついており、しかも判示第一の一、二の各(一)の中古自動車は故障が多いので、これに代えるものとして新車を供与したものであること、新車および給油券の供与は、判示のとおり、工事の指導監督につき種々好意ある取り計らいを受けたことの謝礼の趣旨であるとともに、被告人増子の職務とは関係のない金山の宅地造成工事について技術指導などをした謝礼の趣旨をも含むものであることが認められる。

右の事実関係によると、判示自動車および給油券の供与は、職務に関する謝礼と職務外の行為に対する謝礼とが不可分的に結びついている。したがって、その供与は、全体として賄賂たる性質を帯有するものと解すべきである。この点についての各弁護人の右主張は採用することができない。

三、判示第一の三の罪について

被告人百嶋の各弁護人は、「判示ゴルフの道具の供与申込は、一条裕が用地課工事係長であった当時、同人から札幌市の登録業者となる手続について助言してもらったことに対する感謝の意を表する趣旨のものである。したがって、右供与申込は、一条裕の義務と関係がないのみならず、社交的儀礼行為の程度の域を越えないものであるから、賄賂にあたらない。」と主張する。

そこで、証拠関係を検討すると、判示ゴルフ道具の供与申込には、一条裕が用地課工事係長当時、同人から前記助言を受けたことに対する感謝の意を表わす趣旨の含まれていることは否定することができない。しかし、右助言がなされたのは、昭和四二年暮ころであり、大東工業が登録業者になったのは翌四三年三月であるのに対し、ゴルフ道具の供与申込は同年七月末であり、その間に月日の間隔がありすぎるし、また、右助言の割に供与申込のゴルフ道具は時価六二、〇〇〇円で高価にすぎること、登録業者となっても入札参加資格を得るための指名がなされなければ、請負工事が獲得されないが、供与申込当時一条裕は用地課長として担当工事につき入札参加業者の指名選考の原案を作成し、かつ工事施行の指導監督する権限を有したことなどの諸事情を合わせ考えると、右供与申込は、主として、判示の趣旨によるものと認定するのが相当である。また、右供与申込のゴルフ道具(時価合計六二、〇〇〇円相当)は、大東工業の規模などを考慮しても、社交儀礼の域を超えるものと解すべきであり、賄賂にあたるといわなければならない。したがって、これらの点についての弁護人の主張も採用することができない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 猪瀬慎一郎)

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